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京都地方裁判所 平成4年(行ウ)14号 判決 1992年7月22日

原告

四代目会津小鉄

右代表者会長

高山登久太郎

右訴訟代理人弁護士

南出喜久治

被告

京都府公安委員会

右代表者委員長

小谷隆一

右指定代理人

後藤廣生

被告

京都府

右代表者知事

荒巻禎一

被告

右代表者法務大臣

田原隆

右指定代理人

西田饒

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一被告京都府公安委員会が、原告に対し、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴力団対策法という)五条一項に基づき、平成四年五月二一日に行った聴聞について、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく聴聞の実施に関する規則(聴聞規則という)二四条一項に基づいてなした聴聞終結処分を取り消す。

二右被告が、原告に対し、暴力団対策法五条二項に基づき、同年四月二四日に行った聴聞通知書の差置送達処分が無効であることを確認する。

三被告京都府及び被告国は、連帯して、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成四年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

原告は、暴力団対策法に基づき、被告京都府公安委員会から聴聞通知書の差置送達処分及び聴聞終結処分を受けた。

そこで原告は、暴力団対策法は違憲であるとして、右各処分の無効ないし取消しを求めた。

また、右両処分により、原告が、暴力団対策法三条にいう指定予定の暴力団の如く取り扱われ、また、そのことが、被告京都府公安委員会及び警察庁から報道機関に発表され、世間に報道された結果、名誉、信用が棄損されたとして、被告京都府及び被告国に対して、関連請求に係る訴えとして損害賠償を求めた。

第三判断

一行政事件訴訟法三条にいう処分取消しの訴えないし無効等確認の訴えの対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、その処分等のうちで、その行為により直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最判昭三〇・二・二四民集九巻二号二一七頁、最判昭三九・一〇・二九民集一八巻八号一八〇九頁参照)。

そして、右の国民の権利義務は、実体上の権利義務にかぎらず、手続上の権利義務も含まれないではない。しかし、それが聴聞手続など行政争訟過程の個々の手続に関するものである場合には、法令上その手続違反が独立して不服の対象とされているものでない限り、その手続の目的である終局処分ないし裁決に対する不服の中で争うべきものであって、これを抗告訴訟の対象となる行政処分ということはできない。

けだし、このような手続過程の個別的瑕疵は、直接国民の権利義務を形成し、その範囲を確定するものではない。それは、その争訟手続の終局処分ないし裁決が出されたときに始めて国民の法的地位ないし権利義務に直接影響を及ぼすものだからである。

二そこで、本件において取消しないし無効確認の訴えの対象とされている聴聞通知書の差置送達処分及び聴聞終結処分が、直接原告の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものといえるか否かについて検討する。

1  暴力団対策法、暴力団対策法施行規則及び聴聞規則によると、暴力団対策法五条にいう聴聞は、公安委員会が同法三条ないし四条の指定処分をしようとするときに、事前の必要な手続として行われるもので(同法五条一項)、聴聞に際しては、相手方暴力団の代表者は、指定について意見を述べ、かつ、有利な証拠を提出できるとされている(同条三項)。そして、相手方に十分な準備をさせるため、指定しようとする理由並びに聴聞の期日及び場所を相当の期間をおいて通知することとされ(同条二項)、聴聞の実施の細則は、聴聞規則に委ねられている(同条五項)。

聴聞規則は、主宰者、代理人等、通知公示の方法など聴聞準備の手続、聴聞の進行、証拠調等聴聞実施に必要な事項を定めている。そして、聴聞通知は、聴聞通知書を送達して行う(聴聞規則一四条)。送達は、施行規則四〇条、四一条が準用され(聴聞規則四一条)、一定の要件があれば差置送達ができる(施行規則四一条二項二号)。

聴聞終結は、聴聞規則二四条に定めがあり、主宰者において、聴聞の結果指定処分をするかどうかの決定をするに熟した場合に、聴聞を終了させるものである。以後、相手方においては意見を述べたり、有利な証拠を提出できなくなるなど、手続上の制約を受けることになる。

2  聴聞の終結は、以上のとおり、暴力団対策法三条ないし四条の指定処分を行うための前提である聴聞手続を終了させるものにすぎない。

また、聴聞通知書の差置送達は、通知の内容を相手方に了知させるものであって、聴聞手続過程において手続上の法的効果を生ずるにすぎないものである。

これらは、いずれも直接原告の法律上の地位ないし権利関係に影響を及ぼすものとは認められない。

そして、暴力団対策法二六条は、指定処分(同法七条二項の官報の公示による効力発生後)に不服がある場合の不服について規定しているが、その事前聴聞手続の瑕疵に対する独立の不服申立を許す規定がなく、他にこれを許容する法令はない。

したがって、これらの終結ないし送達は、いずれも暴力団対策法三条ないし四条の指定処分をするか否かの決定の前提となる手続過程上の措置であって、その違法は、終局処分である指定処分の取消ないし無効確認を求める訴訟において、その手続上の瑕疵として争いうるにすぎず、独立して抗告訴訟の対象となるものではないというべきである。

三以上のとおりであって、聴聞終結処分の取消し及び聴聞通知書の差置送達処分の無効確認を求める原告の訴えは、いずれも不適法であり、その欠缺が補正できないことが明らかであるから、却下を免れない。

四関連請求について

行政事件訴訟法一三条は、抗告訴訟に当該処分と関連する損害賠償の訴えを併合することができると規定している。これは、抗告訴訟をめぐる原告の賠償請求を一括解決させ、両請求が別個の訴訟として取り扱われることによって生ずる審理の重複や判断の矛盾を避けるため、本来は訴訟手続を異にする請求ではあるが特に併合を認めたものである。

したがって、抗告訴訟が適法であって、本案の判断に親しむことを前提としており、単に関連請求にかかる訴えであるというだけで、不適法な抗告訴訟に損害賠償請求の訴えを併合して提起することは許されない。不適法な抗告訴訟に併合して提起された損害賠償請求の訴えは、不適法として却下を免れないものと解するのが相当である。

本件において、併合されるべき本来の抗告訴訟が不適法であることは前示のとおりであるから、関連請求にかかる損害賠償請求の訴えも、これを不適法として却下すべきである。

第四結論

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官吉川義春 裁判官中村隆次 裁判官佐藤洋幸)

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